短歌(3/8)
野紺菊
秋風の庭に草ひくわが頭上動きのにぶく鬼やんま飛ぶ
誰待つにあらねど秋は人恋し肌身に沁みて細き雨降る
母好む野紺菊淡きむらさきに咲き初め松の樹下明るし
母好む野紺菊咲くを告げたれど反応無き眼にさうかいと言ふ
認知症の母の言ふこと脈絡の無けれどうんうん聞きやる侘し
虫の声頻りの庭辺すでに暮れ素足にまつはる夕風寒し
朝夕の冷えにせかされ衣更への準備済みたり安堵に眠る
2006年11月12日(日) 00時00分
夏の日々
寝不足の夕を気怠く庭に降り青紫蘇摘めばさやけく匂ふ
葱よりも丈長き草びつしりの畑眺めつつ溜め息いくつ
数日前草取りせしをもう伸びて風にそよぐは穂草の類ひ
朝夕を悪戦苦闘の草取りにやうやく葱の穂先が揃ふ
農業を疎みし吾の少女期よ年経て今を野菜あれこれ
何もかも素人農婦の作りたる野菜にあれど夏を欠かさず
耳遠き母との会話つながらずみんみん蝉の声もせぬとふ
昼食は共にと日々を食べに来る母の小さし杖に縋りて
2006年10月14日(土) 00時00分
歌友・和喜子さんを悼む
和喜子さんの細りたる両手握りしめ歌集上梓は任せてと約す
膵臓癌の進行早きを君知らず楽しく語りし青葉の季節
母がまた入院しました娘さんの押さへたる声受話器にかなし
歌集名は「めをと旅」とぞ君弾み告げきたる声耳底にあり
遺歌集になれば困ると和喜子さんが細き声にて言ふも切なし
あと少しあと少しだけ頑張って君の歌集の上梓は間近
もしもし・母がとうとうだめでした耳を疑ふやうな電話が
あと十日頑張ればなど酷なこと君よ天界に安らかにあれ
2006年10月08日(日) 00時00分